私たちの身の回りにある「映像」と「音」。
これらがビジネスやエンターテイメント、教育、医療といったあらゆる分野で、いかに私たちの生活を豊かにし、コミュニケーションを深めているか、考えたことはありますか?
実は、その裏には「プロAV」という専門技術が息づいています。
今回は、このプロAVが一体何なのか、どんな製品があるのかといった基本から、さらに深く掘り下げて、プロAVがアナログの時代からどのように進化を遂げ、現代の「体験」を創り出すまでに至ったのか、その歴史を紐解いていきましょう!
そもそもプロAVって、何?
その名の通り、業務用として使われる映像(Visual)と音響(Audio)に関する機材や技術、そしてそれらを活用したシステム全体を指します。

「業務用」と聞くと、なんだか難しそうに感じるかもしれませんが、実は私たちの身近なところで、プロAVは大活躍しているんです!例えば、イベント会場の巨大スクリーンや、会議室のクリアな音声システム、美術館の没入感あふれる展示空間など、そのすべてにプロAVの技術が使われています。
プロAVを構成する製品たち
では、具体的にどのような製品がプロAVに含まれるのでしょうか?代表的なものをいくつかご紹介します。
■映像関連製品
ディスプレイ、プロジェクター:
大型LEDディスプレイ、液晶ディスプレイ、高輝度プロジェクターなど、情報を視覚的に伝えるための機器です。駅のデジタルサイネージで時刻表や運行情報を表示したり、大規模な国際会議で発表資料を鮮明に映し出したりします。

Samsungの高精細LED 「The Wall」
ビデオウォール:
複数のディスプレイを組み合わせ、一枚の巨大な画面として表示するシステムです。商業施設のエントランスでブランドイメージをダイナミックに表現したり、監視センターで多数のカメラ映像を一元管理したりする際に活用されます。

LGのマイクロLEDディスプレイを採用した「LG MAGNIT」
ビデオ会議システム:
遠隔地とのコミュニケーションを円滑にするためのカメラ、マイク、モニターなど。国内外の拠点間での会議はもちろん、顧客とのオンライン商談や、遠隔医療での専門医との連携にも使われます。

Yealinkのオールインワンのビデオ会議ボード「MeetingBoard Pro」
デジタルサイネージ:
店舗や公共施設などで、映像や情報を表示する電子看板です。ショッピングモールでのフロアガイド、空港でのフライト情報表示、レストランでのメニュー表示など、紙媒体では表現できない動きのある情報提供が可能です。

ISE 2025でのDynaScanブースで並ぶデジタルサイネージ
映像配信、録画システム:
ライブイベントの映像配信や、会議の記録などに使われます。オンラインセミナーの配信や、大学の講義をアーカイブとして学生に提供する際など、多岐にわたる用途があります。

QuickLinkの 4K映像制作プラットフォーム「StudioPro」
■音響関連製品
業務用スピーカー・アンプ:
広範囲にクリアな音を届けるためのスピーカーや、それを駆動するアンプ。コンサートホールの隅々まで迫力あるサウンドを響かせたり、駅構内でのクリアなアナウンスを実現したりします。

ISE 2025でのPequodブースに並ぶスピーカー
業務用マイク:
会議、講演、パフォーマンスなど、用途に応じた様々な種類のマイク。会議室の天井に設置され、参加者全員の声を均一に拾うシーリングマイクや、演台で使うワイヤレスマイクなどがあります。

audio-technicaの天井用アレイマイクロホン「ATND1061」
ミキサー:
複数の音源の音量や音質を調整する機器。ライブハウスでのバンド演奏の各楽器の音量バランスを整えたり、結婚披露宴でBGMとスピーチの音量を調整したりする際に使われます。

DiGiCoのデジタルミキシングコンソール「Quantum326」
オーディオプロセッサー:
音響信号をデジタル処理し、音質を最適化する機器。会議室でのハウリングを抑制したり、劇場での音響効果を高めたりするのに役立ちます。

ISE 2025でのYAMAHAブースで、イマーシブオーディオプロセッサー『DME10』が登場
ワイヤレスシステム:
コードレスでマイクや楽器の音を伝送するシステム。ステージ上での自由なパフォーマンスを可能にしたり、広い会場での講演会で演者が自由に動き回ることを可能にします。

Shureの高性能ワイヤレス受信機「ANX4」
■制御・統合システム
コントロールシステム:
映像・音響機器、照明、空調などを一元的に操作・管理するシステム。タッチパネルで直感的に操作できるものが多いです。スマートビルディングでは、会議室の照明、ブラインド、プロジェクター、空調までを一括でコントロールし、最適な環境を瞬時に作り出すことができます。
マトリクススイッチャー:
複数の入力信号を任意の出力機器に自由に割り当てるための機器。大学の教室で複数のPCや書画カメラの映像を、教室内のプロジェクターやモニターに自由に振り分けたり、中央制御室で多数の映像ソースを複数の表示装置に割り当てたりします。
ケーブル・コネクタ:
機器間を接続するための高品質なケーブルやコネクタ。特に長距離伝送や高解像度信号の伝送には、専用の高性能ケーブルが不可欠です。
プロAVの歴史を紐解く:アナログからデジタル、そして「体験」へ
プロAVの世界は、技術の進化とともに発展を遂げてきました。その歴史を振り返ることで、現在のプロAVがどのように形作られてきたのかが見えてきます。
■黎明期:アナログの時代(〜1980年代)

イメージ画像:1969年アメリカで開催された野外コンサート、ウッドストック・フェスティバル
初期の会議室では、オーバーヘッドプロジェクター(OHP)やスライドプロジェクターが使われ、音響は拡声器が中心でした。劇場やコンサートホールでは、大型のスピーカーシステムやアナログミキサーが導入され、ライブパフォーマンスの音響を支えました。
例えば、1960年代後半のウッドストック・フェスティバルでは、観客を魅了する大規模なサウンドシステムが構築され、その後のライブイベントの基礎を築きました。すべてがアナログ信号で、機器間の接続も専門知識を要するものでした。
■発展期:PCとインターネットの台頭(1990年代〜2000年代初頭)

イメージ画像:1990年代初頭、アメリカで商用インターネットサービスが始まる
■デジタル化とネットワーク化の加速(2000年代中盤〜2010年代)

イメージ画像:ニューヨーク タイムズスクエアのLEDビジョン
さらに、IPネットワークを介して映像・音響を伝送する「AV over IP」技術の発展により、システムの構築が柔軟になり、遠隔地からの制御や監視も容易になりました。この時期には、大型のLEDディスプレイやインタラクティブなデジタルサイネージも登場し、商業施設や空港などで情報発信の中心となっていきました。
例えば、ニューヨークのタイムズスクエアに設置される巨大なLEDビジョンは、この時代の象徴とも言えます。2012年のロンドンオリンピック開会式では、壮大なプロジェクションマッピングがスタジアム全体を彩り、世界中の視聴者を魅了しました。
■「体験」の創出とインテグレーションの時代(2010年代後半〜現在)

ISE 2025でのEPSONブースで公開された、球体へのプロジェクション演出
近年では、単に映像や音響を表示・再生するだけでなく、空間全体をデザインし、ユーザーに「体験」を提供する「空間演出」としてのプロAVが注目されています。
AIやIoT、VR/ARといった最新技術との融合により、よりパーソナライズされた、没入感のある空間が実現可能になっています。複数のシステムを統合し、シームレスな操作性を実現する「システムインテグレーション」の重要性が高まり、プロAVは「空間デザイン」と密接に関わる分野へと進化を続けています。
例えば、世界各地のテーマパークでは、プロジェクションマッピング、サラウンド音響、特殊効果を組み合わせたアトラクションが、来場者に現実を超えた体験を提供しています。また、企業のエントランスでは、インタラクティブなウォールディスプレイが来訪者を迎え、ブランドの世界観を印象づける役割を担っています。
プロAVが創り出す、これからの未来の「体験」
いかがでしたでしょうか?
プロAVは、単なる「映像や音響の機器」ではなく、それらが連携して生み出す「体験」や「空間」そのものを指します。そして、その進化の歴史は、常に人々のコミュニケーションをより豊かにするための挑戦の連続でした。
今回の記事で、プロAVが私たちの生活やビジネスに、どれほど深く関わり、貢献しているかをご理解いただけたなら嬉しいです。
プロAVの技術は日々進化しており、これからも私たちの想像を超えるような、新しい空間体験やコミュニケーションの形を生み出していくことでしょう。
AIやIoT、VR/ARといった先端技術との融合はさらに加速し、空間と人のインタラクションはますますパーソナルでシームレスなものになっていくはずです。私たちの暮らしやビジネスのあり方を大きく変える可能性を秘めたプロAV。
さぁ、これからプロAVでどんな未来が待っているのでしょう?今後もその動向を一緒に見ていきましょう!
映像や空間演出を手掛けるプロデューサー兼ディレクター。
ProAV Picksでは各種展示会や製品情報のレポートを中心に紹介。