InfoComm 2025 レポート!オーランド発、次世代空間デザインとビジネス変革の展望

InfoComm 2025 レポート!オーランド発、次世代空間デザインとビジネス変革の展望

プロAVの世界最大級展示会「InfoComm 2025」の現地レポート。AI統合を軸に進化する透明LEDディスプレイや次世代会議システムなど、最新技術トレンドを徹底解説。未来の空間デザインとビジネス変革のヒントを、オフィスや店舗、教育現場の事例と共にお届けします。


InfoComm2025

プロAV業界における最新動向を把握する上で不可欠なイベント、「InfoComm 2025」の現地レポートをお届けします。今年のInfoComm 2025は、フロリダ州オーランドのオレンジ・カウンティ・コンベンション・センターにて2025年6月7日から13日までの会期で開催され(展示会は6月11日から13日)、世界の主要メーカーおよびソリューションプロバイダーが一堂に会し、技術の進化と市場の方向性を示す重要な場となりました。

InfoCommとは:世界のプロAVが集結する業界の羅針盤

InfoCommは、プロフェッショナルオーディオビジュアル(ProAV)および統合システムに関する世界最大級の展示会です。
毎年北米で開催され、ディスプレイ技術、オーディオソリューション、コラボレーションツール、統合制御システム、デジタルサイネージ、そしてXR技術など、多岐にわたるProAV製品とソリューションが発表されます。単なる製品展示に留まらず、専門家による講演やワークショップも多数開催され、業界の最新知見とネットワーキングの機会を提供しています。
InfoComm2025

今年のInfoComm 2025は、総展示面積 約37,170平方メートルの広大なスペースに、817社もの出展企業が集結しました。会期中、世界97カ国から30,998人の来場者を迎え、ProAV技術がビジネスの多様な領域において不可欠なインフラとなっている現状が浮き彫りとなりました。

企業の会議室から教育機関、大規模イベント会場、医療施設、エンターテイメント施設まで、あらゆる空間におけるAV技術の進化を具体的に体感できるのがInfoCommの最大の特長です。北米市場の動向が色濃く反映され、実用性、投資対効果(ROI)、そしてエンドユーザーの運用利便性を重視したソリューションが豊富に提示されます。

ISE 2025との比較:それぞれの市場性とトレンド分析

プロAV業界には、InfoCommと並び、欧州で開催される「ISE(Integrated Systems Europe)」という主要な展示会が存在します。両イベントはプロAVの最先端を示すものですが、それぞれ異なる市場特性とトレンドを示しています。



InfoComm(北米): 
実用性、導入後のROI、およびエンタープライズ領域における導入の容易性に強みがあります。ビジネス効率の向上、ハイブリッド環境下でのコミュニケーション最適化など、幅広い業種における具体的な課題解決に焦点を当てたソリューションが多数展示されます。
ISE(欧州):
 比較的、デザイン性、建築空間との統合、アート性、および持続可性といった側面からのソリューション提案が顕著です。欧州特有の文化や建築思想が反映され、洗練された空間演出や、スマートシティソリューションとの連携など、広範な視点でのアプローチが見られます。
今年のInfoComm 2025では、ISE 2025で示された「デザインとテクノロジーの融合」という方向性を踏まえつつも、それをさらに「多種多様なビジネス現場で即応性のあるソリューション」として具体化する展示が目立ちました。特に「AI(人工知能)の統合」が、各カテゴリにおいてユーザー体験の向上と運用効率の最適化に貢献している点が共通のトレンドとして明確に示されていました。

InfoComm 2025の主要トレンドと注目の製品

InfoComm Best of Show

InfoCommにおける主要な見どころの一つは、業界を牽引するメディアや団体によって選出される「Best of Show」アワードです。今年のInfoComm 2025でも、多数の革新的な製品が選出され、今後の市場を形成するであろうトレンドが示されました。

全体的な傾向として、「利用体験の最適化」「シームレスな統合と相互運用性」「運用管理の効率化」といった点が強調されていました。

1. 進化するディスプレイ技術:視覚情報の可能性を拡張

ディスプレイ技術は、ProAVシステムの基盤であり、その進化は空間の表現力を大きく広げます。

透明LEDディスプレイの進化と多様な応用:

透明LEDディスプレイは透過率、輝度、ピクセルピッチがさらに向上し、応用範囲が拡大していました。 例えば、LG(エルジー)は、透明有機ELディスプレイ技術を応用したデジタルサイネージや、店舗什器と一体化したソリューションを展示。
また、LEDディスプレイ大手のUnilumin(ユニルミアン)Absen(アブセン)は、窓ガラスやパーティションとして活用できる高透過率の透明LED製品を披露し、空間デザインと情報表示を両立させる新たな表現の可能性を示しました。 これにより、店舗のショーウィンドウ、オフィス空間の間仕切り、美術館の展示、さらにはAR(拡張現実)コンテンツとの融合など、映像と現実空間をシームレスに繋ぎ、これまでのサイネージでは不可能だった奥行きと視覚的効果を両立させることが可能になります。
LGブースに展示された、AIアシスタントを搭載した30インチの透明 有機ELディスプレイ

LGブースに展示された、AIアシスタントを搭載した30インチの透明 有機ELディスプレイ

高輝度・高精細LEDウォールとマイクロLED:

高輝度かつ肉眼ではピクセルが視認できないほどの超高精細なLEDウォールは、会議室のメインディスプレイから、エントランスのウェルカムボード、イベント会場の巨大スクリーンまで、多様な用途で採用されるトレンドが加速しています。
具体的には、Leyard(リアード)Absen(アブセン)、そしてSamsung(サムスン)のThe Wallなどが、優れた画質と信頼性の高いソリューションを展示していました。特にマイクロLED技術は、従来のMini LEDをさらに小型化することで、より高いコントラスト比、広色域、そして優れた省電力性能を実現し、次世代ディスプレイの主要技術としての位置づけを確立しています。
LEDを用いた様々なコンテンツが披露されているAbsenブース

LEDを用いた様々なコンテンツが披露されているAbsenブース

2. オーディオソリューションの革新:聴覚体験の質的向上と環境適応

音響技術もまた、情報伝達と空間体験の質を向上させる上で重要な役割を担っています。

指向性オーディオと没入型サウンド:

特定のエリアにのみ音を届ける指向性スピーカーや、空間全体を音で包み込むイマーシブオーディオ(没入型オーディオ)システムの進化が見られました。L-Acoustics(エルアコースティックス)Meyer Sound(マイヤーサウンド)といったメーカーは、大規模なライブ会場から小規模な商業空間まで対応するスケーラブルなソリューションを提案。
これにより、美術館や博物館では展示物に応じた詳細な音声解説をピンポイントで提供し、商業施設では特定の商品棚への誘導を目的としたサウンド演出を行うなど、パーソナルかつ高品位な聴覚体験が実現します。

AIを活用した音声処理とコラボレーションオーディオ:

AIによるノイズキャンセリングやエコーキャンセリング機能がさらに強化され、多様な環境下でのクリアな音声コミュニケーションを可能にするソリューションが数多く展示されていました。
Shure(シュア)Sennheiser(ゼンハイザー)といった主要なマイクメーカーからは、AIが背景ノイズを高度に除去し、発言者の声を際立たせる新製品が登場。
また、会議室向けには、YAMAHA(ヤマハ)の「CS-800 Video Sound Bar」のような、マイク、スピーカー、カメラが一体化し、AIによる音声トラッキング機能を備えたソリューションも注目を集めました。これは、音声からの情報活用とハイブリッド会議の品質向上に大きく貢献します。
創立100周年を記念した盛り上がりを見せるSHUREブース

創立100周年を記念した盛り上がりを見せるSHUREブース

3. コラボレーションと会議室の進化:ハイブリッドワーク環境の最適化

現代の多様な働き方を支える会議室およびコラボレーションツールの進化は、今年のInfoCommでも重要なテーマでした。

AI統合型PTZカメラとスマートルームキット:

ハイブリッドワークが定着する中で、遠隔地の参加者と会議室の参加者の間に「場の公平性」をもたらす技術が進化しました。Yealink(ヤーリンク)は、AIを活用した会議室ソリューションを幅広く展開しており、特にMeetingBar A50のようなオールインワン ビデオバーは、強力なQualcomm製プロセッサとトリプルカメラシステムを搭載し、インテリジェントフレーミングやスピーカー追跡機能を実現。
また、次世代Microsoft Teams Rooms(MTR)システムであるMVC S50は、高パフォーマンス処理と適応型カメラ技術により、最適なフレーミングと自動ビュー切り替えを提供し、スムーズでインテリジェントな会議体験を可能にしています。これらのYealink製品は、誰でも容易にプロフェッショナルなWeb会議環境を構築できるよう設計されています。
Yealinkでは様々な新製品に加え、それらを容易に設計 / 構築するアプリケーションも紹介されていた

Yealinkでは様々な新製品に加え、それらを容易に設計 / 構築するアプリケーションも紹介されていた

ワイヤレスプレゼンテーションと統合プラットフォーム:

ケーブルレスで容易にコンテンツを共有できるワイヤレスプレゼンテーションシステムはさらに普及し、複数のデバイスからの同時接続や、デバイスの種類を選ばない高い互換性が強化されていました。Barco(バルコ)のClickShare ConferenceMersive(マーシブ)のSolsticeといった製品が、その利便性と機能をさらに高めていました。また、これら全てのAV機器を一元管理し、直感的に操作できる統合プラットフォームは、会議の準備から進行、終了までをシームレスにサポートし、ユーザーの負担を軽減します。
BarcoのClickShare Conference

BarcoのClickShare Conference。ボタンをクリックするだけで会議室内のAV機器に自動接続する

4. 統合制御システムと管理ソリューション:運用のスマート化と持続可能性

ProAVシステムの複雑化に伴い、その管理と運用をいかに効率化するかが、企業の設備担当者にとって重要な課題となっています。

クラウドベースのAV管理プラットフォーム:

複数の拠点に分散したAVシステムを一元的に監視・制御できるクラウドベースの管理ソリューションが進化していました。Crestron(クレストロン)のCrestron XiO CloudExtron(エクストロン)のGlobalViewer Enterpriseなどが、リモートでの機器監視、トラブルの予兆検知、ファームウェアのアップデートなどを可能にし、大幅な運用効率の向上とTCO(総所有コスト)の削減に貢献します。
現代のワークスペースを形作るコンテンツ、コラボレーション、コントロールにおける最先端を紹介するCrestronブース

現代のワークスペースを形作るコンテンツ、コラボレーション、コントロールにおける最先端を紹介するCrestronブース

InfoComm 2025から見えた、未来の空間とビジネスの可能性

InfoComm 2025は、デジタル技術と物理空間がこれまで以上に高度に融合し、あらゆる「場」の機能性と体験価値を向上させる明確な方向性を示しました。AIによる自動化と最適化は、ProAVシステムを「賢いインフラ」へと進化させ、ユーザーはテクノロジーを意識することなく、本来の目的(コミュニケーション、学習、エンターテイメントなど)に集中できる環境が実現しつつあります。

これらの進化したProAV技術は、空間デザインの新たなコンセプトの具現化を、または生産性向上と顧客体験価値の最大化を、そして運用効率の大幅な改善とトラブルリスクの低減という具体的なメリットをもたらすでしょう。

具体的には、

  • 企業のオフィス環境では、柔軟なディスプレイソリューションやAIが統合されたコラボレーションツールにより、働く人々が創造性を最大限に発揮し、円滑なコミュニケーションを促進する、最適化された職場環境が構築されます。
  • 商業施設やリテール店舗では、透明LEDディスプレイや指向性オーディオを活用することで、顧客を視覚と聴覚で深く引き込み、ブランドへのエンゲージメントを高める、没入型かつ体験型の商業空間が設計可能になります。
  • 教育機関においては、インタラクティブディスプレイとAIを活用した音声システムが、生徒一人ひとりの学習スタイルに対応し、遠隔地の参加者も包含する能動的かつ協調的な学習を促進する、次世代の教育空間を創出します。
  • ホテルやホスピタリティ施設では、客室や共用エリアのスマートAVシステムが、宿泊客の好みや行動パターンに合わせてカスタマイズされたエンターテイメントや情報を提供し、よりパーソナルで快適、かつ記憶に残る「おもてなし」の空間を演出します。
  • 大規模なイベント会場やライブエンターテイメント施設では、高輝度・高精細LED、XR技術、そしてイマーシブオーディオが融合し、観客を圧倒するような、現実と仮想が交錯するスペクタクルな体験を提供する、感動を呼ぶエンターテイメント空間が具現化されます。

InfoComm 2025で示された技術の進歩は、私たちが日々過ごす様々な空間に、より高い機能性と豊かな体験をもたらす可能性を秘めています。ProAV Picksでは、これからも世界の最先端を追いかけ、皆様のビジネスや空間デザインに役立つ情報をお届けしてまいります。

次回のInfoCommは、2026年6月13日から19日にかけて、ネバダ州ラスベガスのラスベガス・コンベンション・センターにて開催されます。
来年もProAV Picksでは、この業界の一大イベントの最新情報をお届けする予定です。どうぞご期待ください。

この記事のWRITER

映像や空間演出を手掛けるプロデューサー兼ディレクター。
ProAV Picksでは各種展示会や製品情報のレポートを中心に紹介。

関連する投稿


時代を彩る!プロAVが創り出す「体験」の進化史

時代を彩る!プロAVが創り出す「体験」の進化史

プロAVって何?実はイベントや会議室、駅のサイネージなど身近な場所で活躍する映像・音響技術です。本記事ではプロAVの基本から、私たちの「体験」を豊かにしてきた進化の歴史、そして未来までをわかりやすく解説します。


熱狂のISE 2025!過去最大の祭典が示す、未来のAV空間の創造力

熱狂のISE 2025!過去最大の祭典が示す、未来のAV空間の創造力

過去最大規模で開催されたプロAVの祭典「ISE 2025」を徹底レポート。Inavation Awardsで表彰された革新的な製品や、NDI、AIカメラなどの注目技術を詳しく解説します。会議、教育、エンタメなど、あらゆる空間の未来を変えるプロAVの最前線をご覧ください。


オフィス・店舗は“体験価値”で差をつける!最新サイネージソリューション最前線

オフィス・店舗は“体験価値”で差をつける!最新サイネージソリューション最前線

世界最大級の展示会で注目された、最新サイネージのトレンドを徹底解説!オフィスの共創を促すインタラクティブディスプレイから、店舗体験を革新する透明・AIサイネージまで。空間の価値を最大化するソリューションの最前線をお届けします。


もはやSFの世界!世界の最新プロAVが提供する次世代会議室の姿

もはやSFの世界!世界の最新プロAVが提供する次世代会議室の姿

会議室はまるでSFの世界へ。AIが発言者を自動追尾し、PC1台で高機能な会議室に早変わり。最新プロAV技術が創り出す、リモート格差のない「次世代の会議室」のトレンドと、人間中心のコラボレーション空間を実現するヒントを解説します。


【プレオープン】世界の最先端へ、ようこそ。プロAVが拓く未来の空間体験メディア『ProAV Picks』、本日始動!!

【プレオープン】世界の最先端へ、ようこそ。プロAVが拓く未来の空間体験メディア『ProAV Picks』、本日始動!!

プロAVで、空間とビジネスの可能性を解き放つ。『ProAV Picks』は、映像・音響・照明技術で未来の空間体験を創造する専門メディアです。世界の最先端トレンドと、ビジネスを加速させるヒントをお届けします。