コロナ禍を経て、私たちの働き方は劇的に変化しました。オフィスへの出社、リモートワーク、そしてその両方を組み合わせたハイブリッドワーク。多様な働き方が当たり前になる一方で、多くの企業が「会議の質」という新たな課題に直面しています。
「リモート参加者が会議の内容を十分に理解できているか?」
「対面の参加者との間に温度差が生まれていないか?」
「多様な会議スタイルに、今の設備は対応できているのか?」

そんな悩みを解決するヒントが、世界のプロAV技術にあります。その最新技術は、もはやSF映画で見た未来そのもの。今回は「次世代の会議室」の姿を、具体的な製品トレンドとともにご紹介します!
トレンド1:AIが会議を最適化する!「インクルーシブ」な体験を生むインテリジェントAV
ハイブリッド会議における最大の課題は、リモート参加者と対面参加者の間に生じる「情報格差」や「疎外感」です。これをテクノロジーの力で解消し、誰もが平等に参加できる「インクルーシブ(包括的)な会議体験」を実現することが、今まさに業界全体の大きなトレンドとなっています。
その主役となるのがAI(人工知能)です。
■発言者を逃さない!インテリジェントカメラ
最新の会議室用カメラは、ただ部屋全体を映すだけではありません。AIが発言者の声や顔を認識し、自動的にその人を最適な画角でズームアップ。まるでテレビ番組のスイッチングのように、対話の流れに合わせて映像が切り替わるのです。
その代表格が、Yealink(ヤーリンク)のオールインワンビデオバー「MeetingBar A50」です。この製品は、広角カメラと望遠カメラを組み合わせたデュアルカメラシステムを搭載。

InfoComm 2025でのYealinkブースで展示された「MeetingBar A50」
AIが会議の状況を常に分析し、参加者全員を的確な画角で映す「オートフレーミング」や、発言者を自動でアップにする「話者追尾」といった基本機能に加え、特筆すべきは「IntelliFocus」機能です。これは、会議室にいる参加者一人ひとりをAIが認識し、個別の映像フレームとして分割表示するもの。これにより、リモート参加者は全員の表情や反応をはっきりと見ることができ、まるで隣に座っているかのような臨場感で会議に参加できるのです。

IntelliFocus機能で各自がクローズアップされた様子。画面中央には全体の様子も映っている
■机の上はすっきり、声はクリアに。主役は「シーリングマイク」
クリアな音声は会議の生命線です。これまでの卓上マイクは、発言者との距離によって音量に差が出たり、ケーブルが邪魔になったりといった課題がありました。そのすべてを解決するのが、天井に設置する「シーリングマイク」です。
天井に埋め込むことでマイクの存在を全く感じさせず、テーブルの上がすっきりするため、参加者は座る場所を気にすることなく、どこから話しても均一でクリアな音声をリモート先に届けることができます。

InfoComm 2025でのShureブースに設けられた会議スペース。マイクやスピーカーは天井にある
代表的な製品が、Shure(シュア)の「MXA920」です。独自のオートマチックカバレッジ™技術により、設定したエリア内で誰かが発言すると、AIがその位置を特定し、自動でその声にフォーカス。エアコンの音などの不要なノイズは「IntelliMix®」技術がしっかり除去し、声だけを鮮明に届けます。
トレンド2:「手ぶら」でOK!フレキシビリティを極めるBYOM
固定されたPC、煩雑なケーブル接続……。そんな旧来の会議室は、もう終わりを告げようとしています。今のトレンドは、社員が持ち寄った個人のデバイス(PC)を最大限に活用する「BYOD(Bring Your Own Device)」。そして、そのデバイスで使い慣れたWeb会議ツール(TeamsやZoomなど)を、会議室の高性能なカメラやマイクに接続する「BYOM(Bring Your Own Meeting)」です。
このBYOMをワイヤレスで実現するのが、Barco(バルコ)の「ClickShare」です。

InfoComm 2025でのBarcoブースに展示されたClickShare

ClickShareは小さく、ボタンのみのシンプルでデザイン
PCのUSBポートに専用のボタンを挿してクリックするだけで、PCの画面と音声が会議室のディスプレイやスピーカーにワイヤレスで出力されます。さらに、会議室のカメラやマイクもワイヤレスで認識するため、自分のPCでTeamsを起動すれば、そこが高性能なWeb会議室に早変わりします。
トレンド3:圧倒的没入感!「21:9 超ワイドディスプレイ」と「フロントロー」体験
リモート参加者の映像がディスプレイの上部に小さく表示されているだけでは、どうしても「向こう側の人」という意識が拭えません。そこでMicrosoft社が提唱し、大きな注目を集めているのが「フロントロー(Front Row)」というTeams Roomsの表示レイアウトです。
これは、アスペクト比21:9の超ワイドディスプレイを使い、画面下部にリモート参加者の映像を実物大に近いサイズで横一列に表示するレイアウト。まるで同じテーブルの向かい側に座っているかのような感覚で、視線が合いやすく、一体感が劇的に向上します。
このフロントロー体験に最適なディスプレイとして、Jupiter(ジュピター)など各社から21:9対応の製品が続々と登場しており、これからの役員会議室や共創スペースのスタンダードになる可能性を秘めています。

InfoComm 2025でのJupiterブースで展示された21:9対応製品
まとめ:テクノロジーが実現する「人間中心」のコラボレーション空間
最新のプロAV技術は、もはや単なる「便利な道具」の域を超えています。AIによる自動化は、参加者を煩わしい機器操作から解放し、本来の目的である「対話」や「アイデア創出」に集中させてくれます。ワイヤレス技術やシーリングマイクは、場所やデバイス、物理的なレイアウトの制約を取り払い、より自由で柔軟なコラボレーションを可能にします。
これらの技術が導入された次世代の会議室は、物理的なオフィス空間とデジタル空間の境界線を溶かし、誰もがストレスなく自然体で参加できる「人間中心のコミュニケーション空間」へと進化を遂げていくでしょう。
場所に縛られず、最高のチームワークを発揮できる。そんな未来の働き方を実現する力が、最新のプロAVには秘められているのです。あなたの会社の会議室も、イノベーションを生み出す「共創の場」へとアップデートしてみてはいかがでしょうか。
映像や空間演出を手掛けるプロデューサー兼ディレクター。
ProAV Picksでは各種展示会や製品情報のレポートを中心に紹介。